Article コラム

脱炭素時代の杭撤去工事 ― 埋戻し材のCO₂と建設発生土の循環利用を考える

建設分野において、環境負荷の低減は急速に重要性を増しています。日本が掲げるカーボンニュートラル政策のもと、インフラ整備や建築分野でもCO₂排出量の削減が求められ、施工段階だけでなく材料選定の段階から環境配慮を行う必要性が示されています(当社の取組みは「地盤技術のカーボンニュートラルへの取組み」で紹介しています)。

杭抜き後の埋戻しは、完成後に地上に露出しない工程であるため、これまで環境性能が注目される機会は多くありませんでした。しかし近年は、工事全体のライフサイクル評価(LCA)の観点から、埋戻し材も環境負荷評価の対象として検討される事例が増えています。今回は、杭撤去工事における埋戻し材を「環境性能」という視点から整理します。

建設分野とCO₂ ― セメントは「使いどころ」が問われる材料

建設産業は社会基盤を支える重要な産業である一方、材料製造や施工に伴うエネルギー消費が大きい分野でもあります。特にセメントは、石灰石を1,400℃を超える高温で焼成する工程で原料由来と燃料由来のCO₂を排出するため、CO₂排出量が比較的大きい材料として知られています。

セメント系材料で埋め戻す場合の工程(採掘・焼成・製造輸送・プラント・養生)と、天然土で埋め戻す場合の工程の比較図
図1:セメント系材料は製造・輸送・プラント・養生の各段階で環境負荷と設備が必要になる。天然土による埋戻しはこれらを使わない

ここで大切なのは、セメント系材料そのものを否定することではなく、「必要な用途に適切に使う」という合理的利用の考え方です。構造体として恒久的な機能を担う用途であれば、その投入は合理的です。しかし杭抜き後の埋戻しのように、主目的が空隙の安定化であり、将来再び掘削される可能性が高い用途に対して、製造負荷の大きい材料を新たに投入することは、資源循環の観点から再考の余地があります。

埋戻し材をLCA(ライフサイクルアセスメント)で評価する

LCAとは、材料の製造から輸送、施工、供用・維持管理、将来の更新までを含めた環境負荷を総合的に評価する手法です。公共工事でも徐々にこの考え方が導入されています。

材料製造・輸送・施工・供用維持・再掘削更新の各段階と、従来の評価範囲・LCAの評価範囲を示す図
図2:評価の範囲が「施工段階」から「ライフサイクル全体」へ広がっている

埋戻しにLCAの考え方を当てはめると、「必要な性能を満たしたうえで、材料の投入量や製造エネルギーを最適化する」という設計思想になります。

  • 過剰な性能を避ける
  • 必要十分な性能を確保する
  • 新規材料の投入量を抑える
  • 将来の再掘削・更新時の負荷まで含めて評価する

建設発生土の循環利用という視点

国は建設発生土の有効利用を重要な政策として位置づけ、資源循環型社会の形成を推進しています。一方で、2023年に施行された盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)に象徴されるように、発生土の適正な管理・処理はますます厳格に求められています。

解体・杭抜き工事で発生した土砂を、適切に品質管理したうえで同じ現場の埋戻しに使うことは、新規材料の投入量と場外搬出量を同時に減らすことにつながります。これは廃棄物削減だけでなく、輸送に伴うエネルギー削減の面からも環境負荷の軽減に寄与します。

解体・杭抜き工事で発生する土を現場内でストック・配合し、BFS工法で杭抜き孔に締め固めて地盤として再び機能させる循環図
図3:現場で発生した土を、同じ現場の杭抜き孔に締め固めて戻す資源循環

地盤環境への影響 ― pHと六価クロム

CO₂のほかにも、セメント系材料を地中に注入することで地盤がアルカリ性を呈することや、セメントに含まれる六価クロムが水和反応により溶出するリスクが指摘されています。セメントミルクや流動化処理土を用いる場合には、六価クロムが規定値内に収まるよう配合管理が必要です(詳しくは「セメント系固化材の問題点」)。地盤環境への影響を根本的に避けるには、そもそも固化材を地中に入れないという選択肢が最も確実な方法の一つです。

環境配慮が「技術提案の差別化要素」になる時代

従来、施工の合理性は主に工期・安全性・コストで評価されてきました。しかし近年はこれに加え、CO₂排出量・資源循環性・将来更新時の環境負荷が評価対象となりつつあります。公共工事の総合評価落札方式でも環境配慮に関する技術提案が評価項目となるケースが増えており、埋戻し工法の選定が技術提案の差別化要素になり得ます。

環境配慮型の施工は、必ずしも施工性と相反するものではありません。固化系材料は即時の安定性が求められる条件に適し、天然土の利用は資源循環や将来施工性を重視する場合に合理性を持ちます。複数の選択肢を適切に使い分けることが、持続可能な施工計画につながります。

セメントを使わない、電気も水も使わない ― BFS工法

当社の「BFS工法」は、現場発生土に山砂などの天然土を加えて砂分40%以上となるよう配合し、専用ドリルで杭抜き孔の最深部から締め固める埋戻し工法です。セメント系固化材を一切使用しないため、地盤のアルカリ化や六価クロム溶出の懸念がなく、地盤環境の保全に適しています。

  • セメント不使用:製造段階のCO₂排出と地盤汚染リスクを回避
  • 電気・水・プラント設備が不要:アースオーガー搭載機と油圧ショベルのみで施工
  • 養生期間が不要:重機の稼働時間と工期を短縮
  • 現場発生土を活用:新規材料の搬入と場外搬出を削減

天然土による埋戻し技術「BFS工法」

BFS工法 施工写真

既存杭引抜き孔などの狭隘な空間に天然土を投入し、専用ドリルで強力に締め固めることで、天然の地盤により近い高品質な埋戻しを実現する工法です。

「地盤環境にも配慮した埋戻し」は、BFS工法が産学連携プロジェクトで開発された当初からの設計思想です。環境配慮提案の技術資料としてもご活用いただけます。

BFS工法の詳細はこちら

まとめ

杭抜き後の埋戻しは目立たない工程ですが、環境負荷という観点では重要な意味を持ちます。今後の材料選定では次の視点が求められます。

  • 必要性能に基づく材料選択(過剰性能を避ける)
  • ライフサイクルでの環境負荷評価
  • 建設発生土の循環利用への貢献
  • 将来更新を見据えた地盤形成

埋戻し材は単なる施工資材ではなく、持続可能な社会基盤を構成する要素として評価される時代に入りつつあります。

環境配慮型の埋戻し工法をお探しの方、技術提案資料の作成をご検討の方は、お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせはこちら(TEL 03-3851-8555)

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