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コラム

地盤技術のカーボンニュートラルへの取組み

World Earth Day Concept. Green Energy, ESG, Renewable and Sustai

18世紀後半の産業革命以来、環境問題は地球規模の深刻な課題ですが、国際的には1997年に採択された京都議定書で初めて温暖化防止のための国際協定が結ばれ、その後も温室効果ガス排出量削減のため、各国が様々な取組みをしています。今回は、地盤技術に関連したカーボンニュートラルへの取組みをご紹介していきます。

 

カーボンニュートラルとは?脱炭素との違い

カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。一方、脱炭素とは、温室効果ガスの排出量をゼロにすることです。

 

カーボンニュートラルと脱炭素の違いは、カーボンニュートラルが温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質ゼロを目指すのに対し、脱炭素は温室効果ガスの吸収量に関わらず、排出量ゼロを目指す点にあります。

 

英語では、carbon neutral や net zero emissions などと言われ、より広範的な意味合いで climate neutral(気候中立)という言葉も使われます。

 

インフラ分野のCO₂排出量

環境省_2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要

2020年度温室効果ガス排出量

出典:環境省ホームページ

国土交通省_国土交通省のインフラ分野におけるカーボンニュートラルに向けた取組

2020年度公共土木(建設・維持管理)の排出量割合

出典:国土交通省ホームページ

気象庁が発表している温室効果ガス排出量によると、2020年度の排出量は産業部門34.0%、運輸部門17.7%、業務その他部門17.4%、家庭部門15.9%、エネルギー転換部門7.5%、非エネルギー期限CO₂7.4%ですが、国土交通省の発表によると、インフラ部門の温室効果ガス排出は全体の約1割強を占めます。鉄鋼やセメントの製作、建設機械から排出される温室効果ガスは産業部門に当たり、貨物の運搬は運輸部門に当たります。

 

国土交通省はまた、建設・維持管理段階別に温室効果ガス排出量を分類しており、上右図の通り、鉄鋼、セメント等による排出量が42.1%と大きな割合を占めています。これに建設機械などから排出される温室効果ガスの割合が加わり、建設業界全体で見ると、温室効果ガス排出量の割合は建設段階で66.5%、維持管理段階で33.4%となります。

 

以上のことから、インフラ分野においては、建設材料の見直し、改善とともに、使用する機械や施工方法など全般的な改善が必要とされています。

 

2050年カーボンニュートラル宣言

2050カーボンニュートラル宣言

2050年カーボンニュートラル宣言とは、2020年10月、当時の菅内閣総理大臣が2050年までにカーボンニュートラル、そして脱炭素社会の実現を目指すと発言した内容を指します。この宣言を受け、2024年現在に至るまで、日本はカーボンニュートラルに向けて取り組んできました。

 

カーボンニュートラルポート

カーボンニュートラルポートとは、脱炭素社会の実現へ向けた取組みの一つで、温室効果ガス排出量ゼロを目指す港湾です。臨海部には石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を利用する産業が多くあり、CO₂排出量の約6割を占めています。そのため、港湾の脱炭素化を実現することで、温室効果ガス排出量を大きく削減できると見込まれています。具体的には、水素やアンモニアといったCO₂を排出しないクリーンエネルギーの利活用を促進するため、水素やアンモニアの輸入・貯蔵設備の整備や、水素ステーションを利用した停泊中船舶への陸上電力供給、貨物運搬車両の省エネ化が進められています。

令和4年度改正建築物省エネ法

令和4年には、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)」が公布され、建築分野でもカーボンニュートラルに向けた取組みが進められています。改正された法律では、エネルギー消費量全体の約3割を占める建築分野のエネルギー消費量抑制のため、省エネ対策の加速が進められているほか、木材利用の促進によりCO₂排出量軽減を目指す内容が盛り込まれています。

地盤技術のカーボンニュートラルへの取組み

カーボンニュートラルポートや令和4年度改正建築物省エネ法は脱炭素社会へ向けた取組みの一つですが、地盤分野においても同様の試みがされています。

 

地熱エネルギーの利用

地熱エネルギー

エネルギー資源の乏しい日本において、自然エネルギーは温室効果ガスを排出しない新たな主要エネルギーとしての利用が期待されています。世界の地熱資源量は、環太平洋火山帯に多く存在しており、日本は、アメリカ、インドネシアに次いで世界で3番目に多い地熱資源量を有しています。が、発電設備容量に関しては世界10位であり、豊富な地熱資源が十分に利用できていないことが示されています。(引用:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構ホームページ

 

豊富な資源があるにも関わらず、地熱エネルギーの利用が普及しない理由の一つには、地熱資源の多くが自然公園内に存在していることが挙げられます。自然公園の環境保全のため、環境に配慮した技術開発やルール策定が必要となり、開発がなかなか進められない現状にあります。こうした課題を解決するため、近年、地熱開発に関わるルール見直しが進められ、地熱エネルギーの利用促進が図られています。

 

洋上風力発電の設備開発

洋上風力発電

風力発電は、近年の急速な経済成長とともに、現在では中国が導入量一位を誇ります。日本においても、再生可能エネルギーとしてその利用が期待されていますが、2022年時点で日本国内における風力発電の割合は0.9%であり、そのほとんどが陸上風力によるものです。(引用:特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所ホームページ

日本政府は洋上風力発電量を2030年までに10GW、2040年までに 30~40GWに引き上げる目標を打ち立てました。2023年12月時点で、日本における洋上風力発電による発電量は年間187.7MWなので、10GWでも約53倍と非常に高い目標ですが、法整備も進み、近年開発は着々と進んでいます。(引用:一般社団法人 日本風力発電協会

陸上風力に比べ、山などの地形による影響を受けにくい洋上では、風向きや風の強さが安定していて、効率的に風力を利用することができます。また、土地の制限を受けないため、大規模設備の設置も可能です。

洋上風力による発電量を大幅に増幅するためには、波浪や風などの外力に耐える基礎や係留構造を構築する必要があり、風力発電先進国であるヨーロッパの国々ではすでに技術開発が進んでいますが、日本の沿岸域の地盤条件や地震による影響を考慮した設計法を確立する必要があります。

二酸化炭素の貯留・固定(CCS)

二酸化炭素固定化

2050年カーボンニュートラル宣言を受け、二酸化炭素を回収し、地中に貯留する技術(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)の開発、実用化が急務となっています。CCSは、発電所や工場などから排出される高濃度二酸化炭素を分離、回収、固定化するため、二酸化炭素の排出削減効果が大きく、カーボンニュートラルの実現に不可欠とされています。

 

日本では、2023年に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」の中で、先進性のあるプロジェクトを支援し、2030年までのCCS事業化のため、環境整備を行うことを明らかにしました。苫小牧では、2012年から国内初のCCS大規模実証実験の設計、建設が開始され、2016年から二酸化炭素の貯留が行われています。

 

二酸化炭素の貯留には、圧入した二酸化炭素の漏出を防ぐ不透水層の存在が必要であり、適した土地の選定のためには地質調査が欠かせません。また、CCS事業化のためには、効率的に貯留を行う施工技術の確立や、貯留の評価技術の開発など、地盤工学分野における研究開発が必要とされています。

 

高レベル放射性廃棄物の貯留・固定

原子力発電

日本では、1966年の商業用原発の運転開始以来、現在に至るまで使用済み燃料が発生し続けており、その量は現在、全国で約1.9万tに上ります。(引用:経済産業省資源エネルギー庁)日本の原子力発電では、核燃料サイクルが推進されており、使用済み燃料はウランやプルトニウムなど再利用可能な物質を回収した後、再利用されていますが、この過程で発生する再利用不可能な廃液、「高レベル放射性廃棄物」の処理方法が課題となっています。

 

現在採用されている処理方法は、「地層処理」と呼ばれ、ガラス固化体として固結させた廃液を地下300m以深の地層に貯留する方法です。廃液の放射能レベルが安全な値まで低下するには数万年単位での長い年月を要し、世代を超えた管理が必要となるため、なるべく人の手による管理を不要とする貯留方法が望まれています。その点地中は、地上より変化が少なく、安定した環境であるため、高レベル放射性廃棄物の処理場所として適切とされています。

 

さいごに

近年、カーボンニュートラル、脱炭素、SDGsといった環境問題に関する言葉は身近なものとなりましたが、多岐にわたるその取組みについて詳しく知る機会はなかなかないのではないでしょうか。今回は、地盤工学の視点から、カーボンニュートラルへの取組みをいくつかご紹介しました。加速する地球温暖化を抑制するためにも、地盤工学は脱炭素社会の実現に向け、研究開発に取り組んでいきます。

 

関連事業

既存杭引抜き孔などの狭隘な空間に天然土を投入し、専用ドリルで強力に締め固めることで、天然の地盤により近い高品質な埋戻しを実現する工法です。

CO₂固定化

車両系機械や発電機などから発生するCO₂を回収し、建設汚泥や流動化処理土内にCaCO₃として固定化させ、地中の埋戻し材料として活用する技術を開発しております。

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