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杭抜き後の埋戻し材料はどう選ぶ?「周辺地盤との調和性」で考える5つの評価軸

都市部を中心に既存建物の建替えや土地利用の転換が進み、既設杭の引抜き工事は珍しいものではなくなりました。杭を抜いた跡には深さ数十メートルに及ぶ細長い空隙が残るため、周辺地盤の安定と将来の沈下防止のために埋戻しが欠かせません。

この埋戻し材には、セメントミルクや流動化処理土といった固化系材料と、土砂(天然土)があります。しかし「どの材料を、どんな基準で選ぶか」は明確な基準がなく、現場ごとの判断に委ねられているのが実情です(工法ごとの手順はコラム「埋戻し工事の重要性と工法の種類」で解説しています)。

今回は「強い材料かどうか」ではなく、「周りの地盤とどう付き合うか」という視点から、埋戻し材料を選ぶための5つの評価軸を整理します。

杭抜き後の埋戻し材料の5つの評価軸(施工時の安定性・周辺地盤との調和性・長期変形特性・将来施工性・環境性)
図1:杭抜き後の埋戻し材料を選ぶ5つの評価軸

杭抜き後の埋戻しに求められる本来の役割

最初に確認しておきたいのは、杭抜き後の埋戻し地盤は、建物を支える地盤改良とは目的が異なるという点です。埋戻しの目的は次の3つに集約されます。

  1. 杭孔(空隙)を安定させ、崩落や陥没を防ぐこと
  2. 周辺地盤の変形(沈下・緩み)を抑えること
  3. 杭を抜く前に近い、連続した地盤の状態を回復すること

つまり求められているのは「高い強度」ではなく、「周囲の地盤と整合した状態をつくること」です。地盤の強度は高ければ高いほど良いと思われがちですが、埋戻しでは周辺地盤と同程度の強度・剛性に“復旧”させることが何より重要になります。この前提を押さえたうえで、5つの評価軸を見ていきましょう。

評価軸① 施工時の安定性 ― 固化系材料が得意とする領域

セメントミルクや流動化処理土は流動性が高く、狭い杭孔の内部にも流し込みやすい材料です。打設後は硬化により早期に安定するため、施工効率の面で長年採用されてきた実績があります。特に狭小地や深度の大きな杭孔では、有力な選択肢のひとつです。

ただし、「流し込めば孔の隅々まで充填されるか」は別問題で、孔内の泥水や孔壁崩落の影響を受けます。この点は記事「杭抜き孔の埋戻し不良はなぜ起きる?見えない孔内で起きる4つの現象と品質管理」で詳しく解説しています。

評価軸② 周辺地盤との調和性 ― 「強さ」より「一緒に動けるか」

自然の地盤は砂・シルト・粘土などの粒子が集まった「粒状体」です。外から力を受けると、粒子同士がわずかに再配列しながら変形し、力を広い範囲に分散させます。一方、セメント系材料は硬化すると粒子が化学的に結合した一体の固化体となり、圧縮強度や剛性は大きく高まる反面、変形しにくくなります。

剛性の大きく異なる材料が隣り合うと、荷重や地下水位の変動を受けたときに両者の変形量に差が生じ、境界部に力(応力)が集中しやすくなります。これは固化材料が劣っているという話ではなく、材料特性の差から生じる力学的な現象です。杭孔は周辺地盤と一体で存在しているため、この「剛性差」が長期的な地盤の挙動に影響する可能性があります。

固化系材料で埋め戻した場合の境界部応力集中と、天然土で埋め戻した場合の応力分散の比較図
図2:固化体と締固め天然土の違い。周囲と同じ粒状体であれば応力が広く分散する

評価軸③ 長期変形特性 ― 数年後に現れる段差

都市の地盤は、地下水位の変動、交通荷重、隣接する工事などによって長い時間をかけて少しずつ変形します。自然地盤は時間とともに圧密沈下しますが(詳しくは「圧密沈下とは?粘性土の特徴」)、固化体はほとんど変形しません。

その結果、周囲の地盤だけが沈み、杭孔部分の固化体が取り残されて局所的な段差が生じることがあります。特に舗装の直下や浅い地盤では、わずかな変位差でも路面の不陸や構造物まわりの段差として顕在化しやすくなります。

施工直後と数年後の比較。周辺地盤の圧密沈下により固化体部分に路面の段差が生じるイメージ図
図3:周辺地盤が圧密沈下すると、固化体の部分だけが残り段差になる

評価軸④ 将来施工性 ― 次の工事で「掘れる」か

都市部では、同じ敷地が数十年単位で繰り返し再利用されるケースが増えています。将来の基礎工事や地下構造物の施工では、埋戻し地盤の「掘りやすさ」が施工効率に直結します。固化材料は安定性に優れる反面、再掘削時には重機への負荷増大や工期の延長、新設杭の打設位置と重なった場合の施工障害につながる可能性があります。

天然土による埋戻しは既存地盤に近い掘削特性を持つため、将来の工事への影響が比較的小さいと考えられます。この視点は記事「『将来掘れる地盤』という考え方 ― 再開発を見据えた埋戻しとライフサイクルコスト」で掘り下げます。

評価軸⑤ 環境性・資源循環性

セメントは製造時に高温焼成を必要とし、CO₂排出量が比較的大きい材料です。また、セメント系材料を地中に注入すると、地盤のアルカリ化や六価クロム溶出のリスクも指摘されています(「セメント系固化材の問題点」参照)。埋戻しは構造物として露出しない工程ですが、ライフサイクル全体で環境負荷を評価する動きが広がっており、建設発生土の循環利用とあわせて材料選定の評価項目になりつつあります。詳しくは記事「脱炭素時代の杭撤去工事 ― 埋戻し材のCO₂と建設発生土の循環利用」をご覧ください。

天然土を「締め固めて」戻す ― BFS工法という選択肢

5つの評価軸で見ると、周辺地盤と同じ粒状体である天然土は、調和性・長期変形・将来施工性・環境性の面で合理的な材料です。それにもかかわらず従来あまり採用されてこなかったのは、細長い杭孔の中で土を締め固める手段がなく、「上から落とし込むだけ」では密度が上がらずに沈下してしまうためでした。評価軸①の施工時の安定性が確保できなかったのです。

この課題を解決したのが、当社が産学連携プロジェクトで開発した天然土による埋戻し技術「BFS工法」です。杭抜き孔に投入した天然土を、専用ドリルで杭孔の最深部から鉛直・水平方向に強く圧縮しながら締め固めていきます。土粒子間の空隙をなくして密度と強度を高めることを基本原理としており、周辺地盤と同種の材料で、周辺地盤に近い状態を回復します。

天然土による埋戻し技術「BFS工法」

BFS工法 施工写真

既存杭引抜き孔などの狭隘な空間に天然土を投入し、専用ドリルで強力に締め固めることで、天然の地盤により近い高品質な埋戻しを実現する工法です。

性能評価試験では、原地盤(関東ローム)のN値3〜6に対し、BFS工法による埋戻し地盤の換算N値は2〜4程度となり、施工1か月後にも地表面の沈下は確認されませんでした。養生期間が不要で、電気・水・プラント設備も使わないため、施工時の安定性と周辺地盤との調和性を両立できます。

BFS工法の詳細はこちら

まとめ:適材適所で選ぶ埋戻し設計

杭抜き後の埋戻しは、単なる充填作業ではなく「将来の土地利用を支える地盤をつくる行為」です。材料選定では次の5点を総合的に評価することが望まれます。

  • 施工時の安定性
  • 周辺地盤との調和性
  • 長期変形特性
  • 将来施工性
  • 環境性・資源循環性

即時の安定性が最優先される条件では固化系材料が適する場面もあります。一方、将来の再開発が見込まれる敷地、舗装直下や浅層で段差が問題になる場所、環境配慮が求められる工事では、天然土を締め固めて戻す方法が合理的です。用途と地盤条件に応じた適材適所の判断が、合理的な埋戻し設計につながります。

埋戻し材料の選定や、杭抜き跡の埋戻し計画についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。BFS工法の専用ドリルはレンタルにも対応しています。

お問い合わせはこちら(TEL 03-3851-8555)

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