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コラム

地盤工学で活用されるCAE解析

CAE解析イメージ

コンピューターの普及から30年余りを経た現在、コンピューター技術は私たちの生活に浸透し、その根幹を支えていますが、こうした技術は日常生活だけでなく、地盤工学などの専門分野においても活躍しています。今回は、そうしたテクノロジーの進化がもたらした新たな解析手法であるCAE解析について解説していきます。

 

CAE解析とは

CAE解析とは

解析の様子イメージ

CAE(Computer-Aided Engineering)解析は、コンピューターによるシミュレーションを利用した解析手法です。地盤工学においては、地盤の性質や挙動を把握し、予測するために使用されます。地盤の特性を詳細に調査することで、建設プロジェクトの設計や実施に役立てるだけでなく、地盤改良工法などの性能評価や新たな技術開発にも活用されています。

 

CADとCAEの違い

CADイメージ

CAEと混同されがちな技術の一つに、CAD(キャド)というものがあります。CAD(Computer Aided Desig)は、コンピューターを利用した図面作成ツールです。近年はテクノロジーの進化により、漫画もデジタルで描かれる時代になりましたが、CADも同じように、これまで手書きで行われていた図面の作成をコンピューター上で実施するものです。デジタル化により、修正が容易になり管理しやすくなるだけでなく、データの共有もしやすくなり、作業の効率化に役立っています。

 

CADは主に建築物の設計図に利用されますが、CAE解析を行う際にもCADは利用されます。CAE解析では、対象物にいろいろな条件を付与し、その結果を記録しますが、その際まず必要なのが、モデルと呼ばれる解析対象です。地盤解析ではCADを利用して地盤や構造物をモデル化し、解析します。

 

地盤工学で活用されるCAE解析の種類

構造解析

直方体

構造解析は、建築物などの構造物の応力、変形、振動などを評価する解析手法です。構造物が、設計された負荷や条件下でどのように挙動するかを理解するために利用され、構造の安全性、耐久性、信頼性を確保することが目的です。

 

構造解析の代表的な手法に、FEM(有限要素法、Finite Element Method)という解析方法があります。FEMは、複雑な形状や性質を持つ対象物を小さな要素に分割し、それらの数値を計算することで全体の挙動を解析する数値解析手法です。つまり、対象物を複数の有限個の要素に分割するということです。地盤工学においては、地盤の他に、橋梁、土留め、護岸などの土木構造物の解析に活用されています。

 

流体解析

水

流体とは、一定の形を持たない気体や液体のことです。もっとも身近な例でいうと空気と水が流体に当たります。流体解析は、こうした流体の動きを解析する手法です。

 

流体解析は別名を数値流体力学(CFD、Computational Fluid Dynamics)といい、流体力学の理論を利用したシミュレーション技術です。CFDでは流体の速度や温度といった側面から対象物を解析します。土木分野においては、河川、ダムなどの設計や、排水システム下水道の設計に用いられます。


粉体解析

さまざまな粒径の粉体

粉体解析は、セメントなどの粉末状のものから石などの径の大きなものまで、粒状の物体を対象とした解析手法です。対象物を粒子状にモデル化し、その挙動をコンピューター上で解析します。

 

粉体解析は、離散要素法や個別要素法(DEM、Discrete Element Method)とも呼ばれ、構造物や流体とは異なり、不連続(離散的)な対象を解析します。粒子同士の衝突、摩擦、接着などの他、それぞれの粒子の位置、速度、回転などを時間とともに追跡します。粉体解析は、土石流や土砂崩れ、液状化のシミュレーションや地盤改良の効果を評価する際、活用されます。

地盤工学におけるCAE解析の活用例

解析イメージ

CAE解析は、地盤の挙動の予測、設計の最適化、リスクの評価などが行えるため、地盤工学分野においてさまざまな用途で活用されています。

 

地盤のシミュレーション

地盤の強度や耐荷重性を分析し、構造物建築のために十分な強度があるかを評価します。また、地震時の液状化や地盤沈下をシミュレーションにより予測することも可能です。このシミュレーション技術によって自然災害発生時の被害想定区域を示したハザードマップが作成されます。他にも、土砂崩れなどの地滑りのリスク評価をすることで、防災対策にも活用されています。

 

地下水のシミュレーション

地中に構造物を建設する際、地下水はその設計に大きな影響を与えます。地下水の水圧が構造物に働くため、新設する構造物の必要強度を設定する際には地下水の水圧を把握することが必須です。また、新設の地下構造物設置により地下水の流れが阻害されると、構造物により流れを堰き止められたことによって、一定区域において地下水が上昇することがあります。地下水上昇により、それまで水位以上に位置していた既存構造物が浸水することで、水の浮力が加わり、構造物の浮き上がりを引き起こすこともあります。他にも、地下水位の上昇は液状化リスクを高める可能性もあるため、こうした地下水の挙動を設計時に事前にシミュレーションすることはとても重要です。

 

地盤改良の性能評価

コンピューター上で地盤改良の工程をシミュレーションすることで性能を評価し、どの程度の効果が得られるのかを検証できます。地中の状態は見えないため、解析により可視化、数値化することで、強度を比較することも可能となります。

 

地下構造物の設計評価

地下構造物の一つである杭は、地盤の強度を補強するために利用されます。CAE解析では、杭の挙動や周辺地盤への影響をシミュレーションすることができるため、さまざまな地盤条件下での杭の挙動を確認することができます。また、建築物を建設する場合、その建築物もモデル化することで、建築物、杭、地盤の相互作用を検証することができます。このように、地下構造物建設時の地盤の反応を分析することで、設計の安全性を確保します。

 

さいごに

テクノロジーの進歩により、私たちの生活は大きく変わりましたが、デジタル技術は工学分野にも大きな変化をもたらしました。これまで実験が必須だった設計プロセスは、コンピューターを用いたシミュレーションの活用により大幅に作業効率がアップしました。特に、目に見えない地盤の特性や挙動の分析をする際、数値化や可視化は技術向上において大きな役割を果たしました。こうした技術の進歩を再考することで、日々その恩恵を受けていることが再認識されます。

 

東京コンテックでは、今回ご紹介したようなCAE解析を用いた解析事業をしています。その他にも、AIによる予測技術などコンピューターテクノロジーを利用した事業も行っております。お問い合わせはホームページお問い合わせフォームよりお願いします。

 

関連事業

地盤調査結果のデータベースから、機械学習を用いて未知点の地盤調査結果を高精度に予測する技術を開発しております。

地盤改良工法の可視化

本来確認することができない施工中の地盤内状況を、シミュレーション技術により可視化することで、性能評価・設計する技術を開発しております。

CO2固定化

車両系機械や発電機などから発生するCO2を回収し、建設汚泥や流動化処理土内にCaCO3として固定化させ、地中の埋戻し材料として活用する技術を開発しております。

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