前回のコラムでは、人々の移動や物流を支える重要なインフラとしてトンネルの歴史と用途別種類を紹介しました。今回は、そうしたトンネルがどのように造られているのか、代表的な工法について解説していきます。
山岳工法
トンネル工法の中でも山岳部で採用されるもっとも代表的な工法が山岳工法です。山岳工法には、矢板工法と NATM(ナトム)工法(NATM:New Austrian Tunneling Method)の2種類があります。1980年代までは矢板工法が主流でしたが、現在、山岳工法といえばNATM工法といわれるほどNATM工法がメジャーな施工方法となりました。NATM工法が一般的になった背景には技術の進歩ももちろんですが、時代とともにトンネルが大規模化したことでより工期が短く、安全で高品質な施工が可能である点が大きく影響しています。
矢板工法
矢板工法とNATM工法の大きな違いは荷重を支える方法です。矢板工法ではまず、火薬で施工箇所を爆破して岩を砕き、破砕した土石や岩石を運び出します。これをずり出しといいます。そして木製の矢板(土が崩れないように支えるための板)を連続して打ち込み、内側から鋼製支保工(アーチ状の鋼製の支え)を設置し補強します。支保工を取り付けたら、内壁をコンクリートで固めます。
矢板工法は、矢板と鋼製支保工で地山の荷重を支える工法のため、地山がゆるんで大幅に荷重が大きくなった場合、補助工法の併用が必要となります。 一方、NATMのような大規模設備が不要であることから、小規模な現場への適用性が高いという特徴があります。
NATM工法
NATM工法は、掘削前に給排水や濁水処理、 吹付けプラントなどといったトンネル工事用の仮設設備を設置する必要があります。その後、火薬を使った爆破あるいは重機による掘削をし、ずり出しをします。掘削・ずり出しの後、一次覆工としてコンクリートを吹きつけ、コンクリートが固まったらロックボルトを打ち込み地山を支えます。ロックボルト打設後、防水シートを取りつけてから再度コンクリートを吹きつけて施工します。
NATM工法のいちばんの特徴はロックボルトの使用です。トンネル内部から地山にロックボルトを打ち込むことで覆工コンクリートと地山を一体化させ、支保機能を増大させます。
シールド工法
出展:国土交通省
シールド工法とは、シールドマシンとよばれる機械を使ってトンネルを掘り進んでいく工法です。先端に金属の刃が取りつけられたマシンを回転させながらジャッキで押し進めていき、土を掘り進めます。掘った部分が崩れてこないよう、セグメントと呼ばれるブロックを組み立て壁面を覆います。
やわらかい地盤でも掘り進められるため、地下河川など水を多く含む土地で活用されています。また、地上で掘削作業を行わないため、施工場所の確保が困難な都市部で多く採用されています。特に地下鉄工事ではシールド工法が主に採用されており、地下鉄博物館では実際に工事に使用されたシールドマシンのカッターディスク(刃部分)も展示されています。
開削工法
開削工法は地上から地盤を掘削してトンネルを作ってから埋め戻すという工法です。ただ掘るだけだと周囲から土が崩れてきてしまうため、掘削範囲にあらかじめ土留め壁を造り掘削を開始します。掘削中も都度、支保工を施して周囲の土が崩れないよう押さえます。所定深度まで達したら、コンクリートを流し込みトンネルを造成します。コンクリートが固まったらトンネル上部を埋め戻し、地上の地盤を元に戻します。
開削工法は、シールド工法が開発されるまで地下鉄工事によく使われていました。現在でも、大規模なトンネルや地下施設を建設する際に多く用いられます。
沈埋工法
沈埋工法は、海底部のトンネルなど水中に用いられる工法です。トンネルを建設する海底部分に溝を掘り、そこにあらかじめ陸上で製作した鉄製あるいはコンクリート製の沈埋函(ちんまいかん;箱状の構造物)を沈めていきます。そうして沈めた沈埋函同士をつなぎ合わせることでトンネルを造成します。
沈埋工法のほかにも、シールド工法や開削工法も水中トンネルの建設に使われますが、沈埋工法は陸上で沈埋函を製作するため施工がしやすく水密性の高いトンネルを建設できるのが特徴です。
さいごに
トンネル建設は厳しい自然環境のもと暮らす人間の創意工夫によって発展してきました。技術の進展に伴い、より効率的で安全性の高い工法が開発されています。工法について学ぶことで、トンネルの構造や安全がどのように成り立っているのか知る一助になれば幸いです。